【密着 | 藤原梨園②】摘蕾・摘花『最高の一粒』への第一歩
桜舞う4月、大分県由布市庄内町には「真っ白な春」がやってきました。
あいにくの雨だった取材日も、まるで雪が積もったかのような美しい花々に包まれていました。
しかし、その美しさの裏側では、秋の収穫の成否を決める「緻密な計算」と「過酷な選別」が始まっていました。

秋へと続く、命のオーディション
梨の花は、一つの芽(花台)から8〜10輪ほど一斉に、そして枝を覆いつくすように咲きます。
「これをすべて無防備に咲かせたら肝心の実が大きく育たないんです」
摘蕾・摘花(てきらい・てきか)とは
花が咲く前の蕾(つぼみ)を摘む『摘蕾』、開花した花を落とす『摘花』
最終的に最良の「一果」に絞り込む作業を『摘果(てきか)』と呼びます。
目的は同じです。
限られた樹のエネルギーを、秋に収穫すべき「最高の一粒」へと集中させることにあります。
藤原さんは、蕾の状態から数手先を読み段階的に選別していきます。
どれだけ早く、正確に栄養の集中投下を行えるか。
藤原さんの頭の中には収穫までの設計図が描かれています。
「だから今、この一瞬が勝負なんです」
――その言葉通り、藤原さんの指先は迷いなく動き、次々と花を摘み、「可能性を秘めた花」を残し続けます。
秋に生るあのずっしりと重い梨は、何万という候補の中から勝ち残った「選ばれたエリート」なのです。

パートナーは『ミツバチ』
梨は同じ品種同士では受粉できないため
異品種の花粉を運んでくれるパートナーの存在が不可欠です。
取材日はあいにくの寒さで、藤原さんの頼もしい相棒であるミツバチたちの活動を見ることはできませんでしたが
園内には養蜂家から借り受けた巣箱が静かに置かれていました。
「気温が10度を超えれば、彼らは一斉に動き出します。人工的な受粉も併用しますが、やはり自然の力と人の手の絶妙なバランスが梨を育てるんです。」
化学的な効率だけでは測れない、自然との共生。
藤原さんの梨の美味しさは、こうした緻密な生態系の管理の上に成り立っています。

藤原さんに聞いた「花と実」の本音
Q:梨の花の匂いは独特ですが、藤原さんはこれを嗅ぐとどんな気持ちになりますか?
「正直、感動している暇はないですね(笑)。『よし、今年も始まった。』というスイッチが入る匂いです。流暢に花見なんてしてられませんよ」
Q:この綺麗な花がどうやって大きな実になるんですか?
「1輪1輪の首元には、既に小さな実が付いています。ここから一週間で驚くほど葉が伸び、実が細胞分裂を繰り返していく。
今の時期に木が蓄えたパワーが残された花に集中して大きくなります。
この『選別』でどれだけ栄養を集中させられるかが秋の大きさと甘さを決めるんです」
次世代へ繋ぐ「産地のリレー」
藤原さんには、自分のお子さんに園を継がせるこだわりはないと言います。
「子供は子供の道を行けばいい。ただ、僕が引退する時に、次の若い人が『これならやりたい!』と思える良い状態で、バトンタッチしたいんです」
自分の代で終わらせない。
次の走者がすぐに走り出せるように
古い木を新しい有望な品種へと植え替えながら
藤原さんは今日も斜面に立ち続けます。

次回の密着は6月。
梨たちが「服(袋)」を着せてもらう
袋掛けの様子をお届け予定です。